Make a move on me

 

ノックをし、深呼吸をひとつ。
「セイランさん、こんにちは」
風の守護聖、ランディは学芸館のセイランの部屋に入る。
「・・・どうぞ」
セイランはランディを一瞥し一言発したきり視線をまた元に戻す。流れる冷たい空気。
書類を抱きしめながら硬直しているランディ。

「で・・・用件は?」
沈黙を破るようにセイランが口を開く。
その言葉にランディは我に返る。

「あ、この書類、ジュリアス様に頼まれて持ってきたんです。今週末までに提出してくださいって」
セイランの前に書類を差し出す。
「ふーん、そう」
セイランは目も通さずにそのまま書類を机の脇に置く。
「あ、あの・・・」
「何だい?もう用事は済んだだろ?僕の貴重な時間を邪魔しないでほしいな」
「・・・・・・。」
セイランはうんざりしたようにランディを見る。
「あのね、僕は今イメージを浮かべているんだよ。そこに突然割り込んでこられるのは不愉快なんだけど」

今までのランディならここで部屋を出て行っただろう。でも今日はある決意があった。
そう、そのためにわざわざジュリアスの用事を言い付かってきたのだから。

『セイランに自分の存在を認めてもらうこと』

聖地に教官としてヴィクトール、セイラン、ティムカがやってきて一月近く。
他の教官たちとはすぐ親しくなれたもののこのセイランとだけはなかなかなじめない。
自分の性格のせいだろうとは何となく思うものの、相手にされていないということが彼にとってはたまらなく辛いことだった。
ゼフェルとだって衝突するものの、それは互いに存在を認め合っているから。
ランディにとって、相手から存在を認めてもらえないのは彼の人間性において耐えられないことだった。
あのゼフェルですら、この目の前の教官とはそれなりに仲がいいようなのに、なぜ自分は…と思うとその思いは尚更だった。

「あっ、あのっ、ここにいていいですか?」
セイランは一瞬虚を突かれたような表情をする。
ランディも我ながら突飛な発言だったと思ったようで口を押さえる。
セイランは思わずため息をつく。
「僕の時間をこれ以上邪魔するわけ?」
「すみません、やっぱり迷惑ですか?」
「・・・だと言ったら、帰るの?君は」
「え・・・そ、それは・・・」
「・・・ふぅ。じゃあいいよ。君の気の済むまでここにいるといい。僕は干渉しないから」
そう言ったきりセイランは再び何か書き出す。
そっと盗み見たそれはランディにとっては意味不明の記号なのか物体というか、全く理解できないものだった。
「あの・・・それ何ですか?」
「君には分かるはずないだろうね。それに、説明する必要もない」
取り付くしまもなく言われてしまう。
「・・・あの、セイランさんって、オスカー様に最初女性と間違われたんですって?」
顔を上げるセイラン。その表情には明らかに不愉快そうだ。ランディははっとする。
また自分の不用意な一言がこの気難しい教官の機嫌を更に損ねてしまったんだろうか。
これじゃあなんのためにここまで来たのかとランディは自分が情けなくなる。
しかし、返って来た言葉は彼の予想とは違っていた。

「君は本当に単純な人だね。僕の目の前でころころと表情を変えて。面白いったらない」

今度はランディが一瞬虚を突かれた形になった。てっきり追い返されるかこっぴどい言葉が返ってくると思ったのに。
「オスカー様の件に関しては、僕からは何もないね。あの人の目も随分濁ってるんだろ。
それに、綺麗だの何だのという形容詞は僕を表すには必要ない」
「そんな!セイランさんは・・・その、綺麗だと思います!俺、芸術のことは分からないけど」
綺麗と綺麗でないものを分けるとしたら、セイランは間違いなく綺麗という範疇に入るだろう。
神の作りたもうた芸術品。自分だけではなくきっとみなそう思うはずだ。
「ばかげているね。外見の美醜など関係ない。すべては自分の感性だよ。・・・まあいい、君とそんな話をしても仕方ないしね」


「はい、あの・・・女性と間違えられるのって、やっぱり・・・不愉快ですよ・・・ね。」
「何だい今度は?・・・確かにまあいい気分だとは言えないんじゃないかい。僕にとってはどうでもいいことだけど」

「実は俺、守護聖になりたての頃・・・それで失敗しちゃって・・・」
ランディはオリヴィエを女性だと思い、あまつさえオスカーの恋人だと思い込んだ一件を話した。
セイランは黙ってその話を聞いていたが、最後にくすっと笑った。
「まったく、君らしいね。でもあまり気にすることはないんじゃないかな。相手はあのオスカー様たちだしね」
「・・・そうですか」
「それにしても、君の思い込みの強さというかその性格にはまいってしまうね」
「え?」
「君のことだ、自分が無視されているとか思い込んで、なんとかこの状況を打破しようと思ってここに来たんだろう?」
ずはりと本質を突き当てられてランディは驚く。
「な、なんで分かったんですか?」
「ほら、また表情が変わった。単純な性格っていうのは見ている分には面白いものだね」
何気に答えをスルーされ失礼なことを言われているとは感じながらもランディは心地よいものを感じていた。
少なくとも今、この目の前の皮肉な芸術家は自分を認めてくれている。いつもの一方通行ではない。
それだけでここに来た価値はある。

「別に僕は君を無視してるつもりはないよ。確かにあまりお近づきにはなりたくないタイプだけどね。
君が無意識に張ってる苦手バリアを何とかしたほうがいいんじゃないかい?」
「え?俺はそんなつもりは・・・」
「無自覚って言うのがまた困ったものだけどね。でも、まあ確かに僕も多少君への考え方が変わった。
さすが勇気を司る風の守護聖様だね。その名は伊達じゃないって。ねえ、ランディ様」

“ランディ様”-------------初めてセイランからそう呼んでもらえた。

「セイランさん、ありがとうございます!これからも、よろしくお願いします!」
満面の笑みを浮かべながらセイランに手を差し出すランディ。
「全く、君って人は…面白すぎる」
面食らいながらもその手を握り返すセイラン。ランディの笑顔につられたように笑う。
「・・・・・・!」
「何?」
「いえ、なんでもないです。邪魔してすみませんでした。じゃ、俺はこれで」
「ああ、あまり歓迎しないかもしれないけど、気が向いたら------またね」
彼独特の言い回しも、その奥の気持ちが見えたようで今のランディには嬉しかった。
今までのセイランに持っていたものが氷解したような気がした。
そしてなによりあの笑顔。
どんな形であろうとも、冷笑ではない本当の笑顔を見られたことがランディにはとても嬉しいことだった。

今までとは違う。相手に一歩近づければ、何かが変わる。
それはきっといいほうの事が多い。・・・ランディはそう思っている。

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ミスチルの「シーソーゲーム」の出だし「愛想なしの君が笑った」を聞いて セイランとランディが浮かびました。
イメージ的にはこの歌があります。
内容はムチャクチャだけど…

HABOKOさん、サイト2周年のお祝いに…こんな感性様でよければもらってやってください。

2004.11.19 up

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