戀 〜いとしいとしと言う心〜  

 

「あなたの記念日はいつですか?」
不意に発せられた君からの唐突な質問に、僕は答えることができなかった。

 

「あ、それ俺も聞かれた」
「なんかそれ、守護聖全員に聞いたらしいぜ。でよー…ちらっと聞いたんだけど
クラヴィスのやろー『昔…ジュリアスを泣かせた日だ』とか言ったらしいぜ!マジかよー」
「嘘だろ……あ、でも、ありそう…」
笑いを堪えながらランディが言う。
「だよなー!あのジュリアスがよー!!」
「ゼフェルってばー、ジュリアス様に失礼だよっ」
「ンなこと言ったっておっかしーじゃん。じゃランディ、おめーは何て答えたんだ?」
「…え、あ…あはは…守護聖になった日かな……マントももらったし」
「はぁ?マントぉ?」
「…お、おかしい…かな」
「お、おめーってホントに…」
「じゃあお前は何て言ったんだよ」
ゼフェルの反応にむっとしたのか遮るようにランディが返す。
「俺?決まってんじゃん『ンなん、ねー』。
でも、ま、守護聖じゃなくなった日が俺の記念日かもよ。なんてな。
でマルセル、おめーは?」
「え、ああ…やっぱりここに来た日かな」
思わず口から出たでまかせ。なぜあの時そう言えなかったのだろう。
「はー、おめーたちってホント、模範解答の優等生ちゃんたちだな」
呆れたようにゼフェルが言う。
「でも、なんでそんなこと聞いたんだろ」
「知らねー。いつもの気まぐれじゃねーの」
「あ、もしかして、今度アンジェリークの女王就任一周年だから…それに関係してるのかな」
「あー、そうだったな。あいつが女王になってもう一年か。それでもそれなりによくやってるんじゃねーの?
ま、その記念パーティーの方が俺は楽しみだけど。酒も飲めそうだし」
「お前なー…。それはそれとして、うん、俺もそれは認める。そして、なんていうかさ、変わったよな。
全体的な雰囲気が大らかになったっていうか…」
2人の会話に頷きながら僕はあの日のことを思い出していた。
記念すべき日、僕は心からそれを祝ってあげられなかった。遠くに行ってしまう君への思いを封じ込めるしかなかったあの日。 あれからもう一年。僕は…。

 
「あなたの記念日はいつですか?」
そう僕に聞いた君。その瞳はまっすぐで、何か言いたそうで、だけどみんなお見通しのようで
答えられず僕はうつむいてしまった。
小さな溜息。続く沈黙。
その沈黙に耐え切れず僕は部屋を出た。
“だってさ…僕の思い…簡単に見透かされそうな気がして…怖くなったんだもん”
僕は窓辺の花を手入れしながらぼんやりと考えていた。
アンジェリーク、即位するまではあんなに身近な女の子だったのに、あの日を境に
旧に手の届かない存在になってしまった。見えない壁が僕らを隔てた。
女王と守護聖という関係が、それまでの日々を遠いものにしてしまった。

  「あーっ、もうマルセルっ!しっかりしろ!」
僕はその思いを断ち切るようにぶんぶんと首を横に振る。そう、彼女は女王候補じゃない、もう立派な女王だ。
彼女を支えることができるんだからそれでいいじゃないか。それ以上を望んじゃいけない。それは逃げじゃない諦めじゃない
納得したんだからそれでいいんだ!

自分にそう思い込ませようとする僕。
だけど、心の片隅が“ちくん”と痛んだ。

 
そして今日は就任一周年のパーティーの日。
ジュリアス様も「守護聖同士の親睦を深める」ということで多少は大目に見てくれてるし
みんなもともとこういうの嫌いじゃないみたいだから(クラヴィス様もそんなにイヤじゃないみたいだし)楽しくやっていた。
こんな風にみんなで笑ったのも久しぶりな気がする。
ゼフェルがオリヴィエ様にちょっかいかけて追いかけられて、ランディとルヴァ様がとばっちり受けて…
「あはははは…ああおかしい。ねぇアンジェ…」
思わず口に出た言葉。言ってからはっとする。そう、隣にアンジェリークがいた。
「! あっ、ごめんなさい陛下。僕つい…」
そんな僕に軽く首を振りにっこりと微笑む君。
「……やっと笑ってくれたね」
「え?」
「だって、ずっと私に笑ってくれなかったから。嫌われたのかと思ってた」
その言葉に驚く僕。
「そ、そんなことないです。僕はただ…」
「ただ?」
「あ、あの…陛下はもう陛下だから…女王候補のアンジェリークじゃないから…だから…だから…」
「今までどおりにはできない…?」
「……は、はい…。」
「…そう」
君は悲しそうに一瞬目を閉じる。そして僕をまっすぐに見つめた。そのまなざしに僕はたじろぎ目を逸らす。
「逃げないで」
「!?」
「これ以上もう逃げないで。女王陛下ではなく…ううん、女王なんだからそれは無理だけど…女王と見てもいいけど、
私自身を、アンジェリークという私もしっかり見て」
「へ・・・いか?」
「この一年私なりに一生懸命やってきた。今までとは違うことも身にしみてわかった。
だけどみんながいるから・・・みんなに助けられてここまできたの。前よりもっともっとみんなのことが好き。
マルセル、あなたのことも。ううん、違う、みんなへの好きとはちょっと違うの。だから、そんな風に壁を作ってほしくない」

君の言葉に僕の頭は真っ白になる。
「で、でも…だ、だって、アンジェリークはもう女王候補のアンジェリークじゃないし、もう僕の手の届かないところに…」
ぎゅっと僕の手を握る君。
「そんなことないじゃない。ほら、こうやって手も握れる。手の届かないところになんて行ってないじゃない。私はここにいるじゃない」
「で、でも…でも……」
声が震える。目の前の君がぼやけてくる。だ、だめだ泣いちゃ!ぎゅっと目をつぶり首を横に振る。でも、頭の中はぐちゃぐちゃだ。
「でも…僕、僕…僕だってへい…アンジェリークのこと好きだけど、好きって思っちゃいけないから…だから…だから」
「…確かに女王と守護聖だけど、女王の中の私自身を見てほしい。だめかな」
「だめだなんて…そ、そんなことない…」
「本当?」
「で、でも…いいの?僕は陛下より年下だし、全然頼りにならないのに……」
「そんなことない」
「だけど、こんな僕だけど、へ…アンジェリークのこと護りたい、支えになりたい」
「マルセル…」

 

「おーいそこのお二人さーん、いいトコなのにごめんねー」
オリヴィエ様の声にはっとし、声の方向に恐る恐る顔を向けると……みんながにやにやしながら僕らを見ていた。
え、ええええーーーーーーーーーーっ!!な、なんでーー?
「お前ら気がついたら二人の世界作っちゃってるんだもんなー。けど、面白いもん見せてもらったぜ」
ゼフェルが追い討ちをかけるように言う。
「へ、陛下…マ、マルセル……あ……」
ジュリアス様はもう言葉にならないみたいだ。あーーどうしよう〜〜〜
「ジ、ジュリアス様、こちらに。まずは落ち着かれて」
オスカー様がすかさずフォローに回る。ジュリアス様の肩を抱き僕らに背中を向けさせる。
そして振り向きざま僕らに向かってウィンク。

「!」
「みんなー、ありがとうー!大好きよ!」
アンジェリークが僕の手をぎゅっと握り駆け出す。
「え、ちょっとアンジェ…」
「お二人さんがんばってー!」
「上手くやれよー!」
冷やかしの声を背に引っ張られる僕。

 

皆の姿が見えなくなった庭園。木陰に二人きり。
「あなたの記念日はいつですか?」
悪戯っぽく聞く君。
「・・・今日」
今度は迷わず言える。君の記念日が僕の記念日。

--------------------今日、君の記念日と僕の記念日が重なる。


2007.3 アンジェリーク阿弥陀に投稿したもの
お題は「記念日」というものでした。
なかなかノーマルCPは書けないのですが、リモ陛下にがんばっていただきました。
最初イメージしていたものと全然違うものができちゃったのですが、楽しかったです〜

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