待っていたのかもしれない。
この時を。
どちらにも行けない自分を救い出してくれることを。

剣を携え目の前に立つこの少女に。

 
例え、それが破滅だと分かっていても。

 

泡沫---うたかた-----

 
 

エリスと再び出会うために俺はアリオスという人格を作り出した。
しかしアリオスがアリオスとして行動するうちにその目的とは別の思いが生まれてしまった。

エリスを再生させるにはアンジェリークがなくてはならない存在だ。
復活まではこの娘を殺せない。

俺は、どうすればいい?
俺は、どうなればいい?
エリスを復活させたい。
しかし、アンジェリークも失いたくない。

アリオスでいることの苦しさ。
でも、アリオスでなければアンジェリークとは・・・

レヴィアスである俺。
そしてアリオスという俺。
2つの人格。
2つの記憶。
相反する2つの人格がどんどん膨らんでいく。

俺は、どうすれば・・・・・・・。

 
「アリオス、どうしたの?お腹でも痛い?」
黙り込んだ俺が気になったのかお前は声をかける。
「あ・・・何でもねーよ。しっかし何だお前、“腹でも痛い?”って。
よっぽど食い意地張ってんだな」
「!! ひっどーーーい!人がせっかく心配してるのに!」
「食い過ぎをか?」
「もう、知らないっ!」
本気になってむくれるお前。そんな他愛のないやり取りももう苦しくて。

「ちょっと考え事してたんだよ。だから心配すんな」
「考え事?」
「この世界ですぐ消えてしまうものはなんだろうってな」
「すぐ消えちゃうもの・・・春の雪かな?綺麗なのに降り落ちた途端すぐ消えちゃう」
「まぁそうだな。こないだの惑星の雪はなかなか消えそうにねぇけど」
「アリオスは何だと思うの?」
「・・・・・・。考え中。・・・ほら、もう寝ろ。休めるときは休んどいたほうがいい」
「・・・アリオスは?」
「ああ、その辺ちょっと見回りしてくる。ちゃんと寝っから心配すんな」
アンジェリークの頭にポンと手をやり背を向ける。

すぐ消えちまうもの・・・真実、愛、命、信じている世界。
俺はずっとそう思っていた。すぐ消えるものなら信じない。信じなければ思い悩むこともない。
エリスに出会ってから思い直しかけたが・・・あいつを失ってやはりそんなものは幻想だとわかった。
現に、俺はアンジェリーク、お前を騙している。
それを知った時、お前はどうする?信じてる世界が壊れる時、お前は?

このまま旅を続けていれば
俺は俺を欺き
エリスも欺き
あいつらも欺き
お前も欺き・・・
もう・・・限界だ。

そして俺はアンジェリークの前から姿を消した。
もうアリオスという人間はいない。

 
レヴィアスの姿で俺はお前の前に立つ。
そう、お前たちが追ってきた敵の姿で。

我を憎め
俺を憎め
お前の大事な仲間たちを
そしてお前自身を
欺き裏切った俺を憎め

それなのにお前は・・・どうしてそんな目で俺を見る?
お前の周りにいる守護聖たちのような目で俺を見ない?
なぜ俺を憎まない?

 

 
「人魚姫は海の泡となってしまいました」
どこかの国の古い童話の結末に儚いね、と寂しそうに呟いたエリス。
春に降る雪はすぐ消えると残念そうに言ったアンジェリーク。
そんなもんだと嘯いた俺。
人も想いもそんなもんだ、すぐ消えちまう忘れちまうと。

だけど想いは消えない。忘れられない。
エリスへの想い。
アンジェリークへの想い。
人の想いなどすぐ消えてしまうはずなのに、なぜ俺はこんなに苦しいんだ?

エリスはもう俺のもとには戻らない。
ならばアンジェリークはもう要らない。
では、アンジェリークを求める俺はどうなる?
この想いを封印するにはもう遅すぎた。

 
ならば、アンジェリーク、俺はお前に賭けよう。
レヴィアスである俺。
アリオスである俺。
救ってくれ裁いてくれ俺を楽にしてくれ
そして全てを終わらせてくれ
その剣で-----------------------

 
いや、我は皇帝。お前に頼らずとも俺自身で幕を引こう。
それが俺にできるお前への償い、エリスへの弔いだ。

 
周りが音を立て崩れていく。
俺も・・・。
皇帝と女王・・宇宙を統べるものとして・・・お前は俺のようになるな。
そして・・・幸せになれ。

 

薄れ行く意識。俺は誰だ?

・・・もし、生まれ変われるものならば・・・・・・。
また、お前に会えるだろうか・・・・・・。

そこにはブラウンの髪の少女。
エリス・・なのか?
・・・それとも・・・・・・。

少女は振り返って微笑み手を差し出す。
まぶしい光に何も見えなくなる。

 
ああ、お前か・・・

俺は、俺になれるんだな・・・
あとはもう、何も・・・ただそれだけで・・・。


2008.3 アンジェリーク阿弥陀2に投稿したものです
お題は「泡沫」というものでした。
うたかた→はかないもの・・・、で
レヴィアスとアリオスを行き来する「彼」をイメージさせていただきました。
どちらにしても転生した彼が、彼の望んだ自分になれますように、と。

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