オーバードライブ 〜 ジュリ様奮闘す 〜

 

執務の書類から日付を確認するためにカレンダーを見るジュリアス。
ああ、そういえば、と思う。
そこに記されている文字。そう、それは新しく来た風の守護聖の誕生日だった。

 

「祝賀会、ですか?」
ジュリアスの提案にオスカーは一瞬困惑の表情を浮かべるが、己が敬愛するジュリアスの言葉だからと 黙って次の言葉を待つ。
「ああ、風の守護聖もこの地に就(き)たばかりでやはり慣れない事も多いだろう。親睦を兼ねて、どうだ?」
「さすがジュリアス様、守護聖同士の和も図ってくださっているのですね。素晴らしいことです。では、早速準備に…」
「いや、その必要はない」
「え?」
「私が企画しようと思う」
ジュリアスの言葉にオスカーは耳を疑う。
「…ジ、ジュリアス様が、ですか?」
「ああ、首座であるこのジュリアスが計画したとあれば、他の守護聖たちも参加するだろうし、 あの者も喜んでくれるだろう。」
「…そうですね」
穏やかな微笑を浮かべるジュリアスに、心の中では一抹の不安が過ぎりつつも頷くしかないオスカーだった。

 

さて、どのような催しをしたものか…誕生日たるもの、やはり祝い祝われ、印象に残るものにしなくては。
ジュリアスは考えを巡らせる。
お茶会や夕食会ではなく、誕生祝賀会。
就(き)たばかりの若い守護聖、元気なようだが完全にこの地に馴染んではいないだろう。
オスカーが何かと面倒を見ているとはいえ、同世代の者もおらぬため心細い思いをしているのではないか。
不安は少しでも取り去ったほうがいい。
ランディ以外の守護聖には日時を後日伝える、それまでは他言無用とオスカーに口を封じたので計画が漏れる心配はないだろう。
当事者本人にはその時まで知らせないほうが感動も強まるに違いない。
それには…

ジュリアスは立ち上がり、王立図書館に向かった。

 

ジュリアス様、ああは言ったものの、果たして大丈夫なのだろうか。
提案自体は悪くはない、とは確かに思う。
しかしその提案者が…あのジュリアス様だ。
カティスはいい、闇と鋼の守護聖は大丈夫なのか?俺やリュミエール、オリヴィエ(多少の不安はあるが)
そして、企画がすべった場合どうフォローに回ればいいだろうか。
はぁ…オスカーは溜息をつく。

 

 
そして、いよいよその日がやってきた。
カティスの取り計らいで心配されていた協調性皆無な二人の守護聖もトラブルなく出席し、 何も知らず連れて来られたランディも何が起こるのか複雑な表情で席に着く。
「皆、よく集まってくれた。今日はこの者、ランディの誕生日だ。
皆でそれを祝いたいと思う。ランディ、今日がそなたにとって記念すべき一日になるよう考えたつもりだ。
よい時間を過ごしてくれ」
「ジ、ジュリアス様、あっ、ありがとうございます!!」
ジュリアスの言葉にランディは顔を輝かせ、余程感動したのか立ち上がって深々と礼をする。

ジュリアスは従者に向かい合図をする。運ばれてきたのは飲み物とケーキ。ケーキはランディの目の前に置かれる。
9人が食べるのだから心もち大きめに作られている。「ハッピーバースディ」の文字と18本のろうそく。
皆‘灯されたろうそくの火を一息で吹き消すと願い事がかなう’という言い伝えから行うものだと思い、ろうそくの火が灯されるのを待つ。
しかし給仕は動かない。怪訝そうに給仕を見上げるランディ。
それが合図のようにジュリアスが凛と言い放つ。
「ランディ、そのケーキに顔を突っ込むのだ」
皆の視線が一斉にジュリアスに向かう。当のランディはその発言に目を見開いている。
「ジ、ジュリアス様、それは…」
オスカーがそれでもフォローに回ろうとするが、ジュリアスは構わず続ける。
「誕生日を祝うにあたって私なりに文献を調べてみた。各惑星によっていろいろあるものだな。
しかし共通して言えるのは‘祝う’という心だ。各地の祝いを体験することによって、民の心を知ることができるだろう」
一同静まり返る。これは嫌がらせではなく、ジュリアスなりの真心の表れなのだろう。だからなお一層タチが悪い。
あのカティスすら二の句が継げないでいる。カティスが言葉を出せないくらいだ、さすがのオリヴィエも言葉を挟めない。

それでも躊躇しているランディ。なぜ行動に移さないのだという表情のジュリアス、はっとしたように言う。
「ああ、すまぬ。ろうそくが邪魔だったな」
給仕にろうそくを抜くよう目で合図するジュリアス。ランディは給仕に救いを求めるような目を向けるが 彼は目を伏せ小さく首を横に振る。
半分ろうそくの抜かれたケーキを前に、ついに観念したのかランディはケーキに顔を埋めた。
ケーキから顔を離したランディの顔を皆見ないようにしているのがわかる。
給仕もそんな彼を見ないようにしてろうそくを元に戻し火を灯す。
「さあ、消すがよい」
クリームのついた顔で一気にろうそくを吹き消すランディ。静まり返る中ジュリアスの拍手が響く。
追従してオスカー、そして他の守護聖たちの拍手が続く。
給仕は器用にケーキを9等分し、各人に配る。
クリームまみれのランディを見ないように目の前のケーキを無言で食べるしかない守護聖たち。
ジュリアスだけが満足そうに、ケーキを口に運んでいる。

次に出てきたものは、わかめのスープと、麺。
「これは出産後の母親が栄養を取るためにわかめスープを多く飲むことから来ているそうだ。
麺は長寿の願いがこもっているのだ。さあ、母を思い長寿を願い味わうがよい」

一通り食器が空になった頃、ジュリアスの次の一言。
「誕生日は、自分を生んでくれた母に感謝を告げる日でもある。
本来なら自分の親、ひいては女王に感謝を示すべきだろうがこの場に陛下はおられぬ。
結果としてここでは私たち守護聖が親であり兄であらねばならぬ。
さあランディ、私たちを母親だと思い感謝の念を表しありがとうと言うがいい」
数歩後退するランディ。皆彼の心情を思うとどう慰めていいかわからず目を伏せるだけだ。
それでもさすが勇気を司る守護聖、それでも言葉を搾り出す。
「あ、あの、ジュリアス様、一人ずつにですか」
「無論だ」
がくっとうなだれたように見えたのは彼らの気のせいだったのかもしれないが、
「母に感謝」という部分には非常に共鳴したようで、ランディは皆に感謝の念を告げて回ったのだった。


「次は…」
ジュリアスの言葉に全員が緊張する。
「皆、順番にランディの耳を年の数だけひっぱるのだ。強く引っ張れば引っ張るほど祝う気持ちが大きいということだ」
さらに凍りつく会場。
「まず、この私が首座として最初に祝わせてもらう」
ジュリアスはランディの傍らに立ち、ぎゅむむむ〜〜〜〜と耳を引っ張った。
「!!!!〜〜〜〜〜!!!!!」
クリームまみれの人間の耳を思い切り引っ張る、低俗なコメディでもあるまいにそんなシーンが目の前で繰り広げられている。
しかもそれは自分たちの仲間なのだ。
そして、その行為に荷担しなければならないということに、守護聖である身を呪うしかなかった。
恐ろしいことは、企画立案者がその内容について疑問を持たず純粋に祝う気持ちだけで動いているということだった。

「ジュリアス、耳云々はおまえが代表として祝ったことにしないか?」
果敢にも助け舟を出そうとするカティスに皆心の中で拍手喝采する。
「カティス、ではそなたはランディの誕生を祝うという気がないのか?」
カディスは両手を胸の前で横に振る。
「もちろん、祝う気は充分にある。が、次の行動に移ろうじゃないか。時間もだいぶ経ってしまった。まだまだ続くんだろう?」
ジュリアスは時計をちらと見、やむなく頷く。
「ああ、そうだな。次は…」
給仕に合図をすると卵が18個運ばれてきた。
皆顔を見合わせる。

「ジュリアス様、こ、これは…?」
「年の数だけ卵を頭で割るんだそうだ。ああ、案ずるな。割った卵は料理に使わせてもらう」
いや、そうじゃなくてーーー!!と叫ぶランディの声もサクリアが見せた悪戯だろうか。
ほっとしたのもつかの間、卵を頭で割れというジュリアスからの命令にランディも逆らうこともできず、 もうどうにでもなれと開き直って卵を割り始めた。

どうリアクションしていいのかわからず会場内に重い空気が漂っている事に、満足至極のジュリアスは気がつかない。
この後も尻を年の数だけ叩かれたり、小麦粉をかけられたりとランディにとっては別の意味で忘れられない誕生日になった。

 

 

後日談:
ジュリアスはこの誕生会にいたく満足し、以後守護聖の誕生日の恒例行事にしようと希望を出したが
他の守護聖の猛反対により二度と行われることはなかった。
(特に次の誕生日であるリュミエールは実行するならサクリアも守護聖の座を捨てるとまで反対した)
不満気なジュリアスに、そのような手間をもう二度とかけさせたくはないとオスカーが上手くなだめすかし
渋々納得させた。
ランディはその後しばらく寝込んでしまい、執務に復帰してからもジュリアスの姿に怯えていたという。



ごめんなさい。
それでも自分、ランディ愛してます!

そしてジュリアス様にもごめんなさいをm(_ _)m
2007.03.27up
(出典及び言い訳はあとがきにて)
珍しく主役側からではなくジュリ様視点ではありますが
客観的に書いてみたけど難しいですね。やっぱり

 
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