The day

 

その日の朝が来た。
「ゼフェル、おはよう!!」
ロードワーク帰りのランディはその館を訪れる。
いかにも爽やかな朝そのものといった彼に対比してその館の主は不機嫌そのものだ。
「・・・っせーなー、人が気持ちよく寝てんのに・・・邪魔すんじゃねー」
目覚ましの時間を確認し、再び眠ろうとする彼−ゼフェルを慌てて止めようとするランディ。
「ゼフェル、起きろってば!」
「・・・あー、だから起きる時間になったら起きっから。執務にゃ遅れねーんだからそれでいいだろ」
「ゼフェル!陛下の勅命だぞ!」
「・・・はぁ?」
陛下の勅命?朝からなんだ?まだ起きない頭でぼんやりと考える。俺、何かしたか?
「・・・ったく、うっせーんだよ。なんだってんだ・・・」
「ゼフェル・・・」
「あ?」
ランディの一瞬の緊張にゼフェルは身構える。

「誕生日おめでとう」
「へ?」

 
唐突な、全く想像もしていなかったランディの言葉。一瞬頭の中が白くなる。
「なんだよその顔。これも陛下の勅命なんだぞ。“今日はゼフェルにまずおめでとうを言いましょうね♪”って」
「・・・そのために俺の貴重な睡眠を遮ったってのかよっ!」
「だ、だって・・・やっぱり朝まず一番に言うものだと思ったからさ・・・俺、ここに来る前からそうだったから・・・」
・・・そうだった。こいつの健全思考を忘れていた。
そんなことは執務の時にでも充分だと思ったゼフェル、一瞬すまなさが頭を過ぎる。
「あー、そりゃどーも。朝からわざわざありがとさん」
ありがたく思いながらも半ば皮肉まじりに礼を言うゼフェル。しかし皮肉は通じないようでランディは言葉を続ける。

「いや、喜んでもらえてよかったよ。・・・で、」
「なんだよ」
「陛下からの勅命もう1つ。“今日は午後からゼフェルの誕生パーティを開きます。豪華プレゼント付き。
来てねv”だって」
「パーティー?」
「うん。“来てねv”と強く念を押してたぞ」
強く念を押していた・・・ということは言葉には出さないものの来なかったらどうなるか、を如実に物語っていた。
「・・・・・・午後、だな」
「ああ。それまでに今日の執務終わらせておくようにって。あ、これはジュリアス様から」
「へーへー。・・・って、そこまで忠実に言うなっ!」
そんなやりとりの中目覚ましが鳴り出す。
「ほら、起きる時間だぞ。仕度してさあ、行くぞ」
ゼフェルの腕を取り自分の方に引っ張るランディ。
「・・・いてっ。わーったよ。起きっから離せって・・・あー、たく、めんどくせーなー」
渋々立ち上がりぶつくさ言いながら朝の仕度をはじめるゼフェル。そんな彼を見ながら自分の役目は果たしたと満足そうなランディ。
「じゃ、俺はこれで。また後でな」
来たときと同じように爽やかに彼の部屋を出るランディの背中を見つつ、大きなため息をつくゼフェル。

 

執務室。
それでも会う者たちそれぞれに「おめでとう」と言われるのは悪い気はしなかった。
ジュリアスやオスカーなど、一瞬言われた方が引きそうだが、そんな彼らのその言葉を言うためのリアクションに
思い出し笑いを隠せない午前中のゼフェル。もちろん執務など二の次だったりする。

そして午後。すっぽかしを防ぐためマルセルとランディが迎えにきた。
陛下の“来てねv”がどれほどの効力を持っているかは皆身にしみて分かっているが、それでも念のため−逃亡を防ぐためと逃亡がどんなに恐ろしいことかを悟らせるため−2人が呼びに来たのだ。
「わかってっから。いくら俺だってそんな恐ろしい真似はしねーよ」
両腕を2人にホールドされつつ会場に入るゼフェル。

ぱっとゼフェルにスポットライトが当たる。
「はーいはい、本日の主役の登場だよ。誕生日おめでとーゼフェル!」
オリヴィエの声。周りには守護聖と女王試験は終わったものの残務処理のために残っていた協力者たち。
やはり聖地は居心地がいいのか残務処理と言いつつ何となく居座っている感もないわけではなかったが。
「ゼフェルさま、ハッピーバースデー!」
雰囲気に戸惑いどう言葉を繋いでいいか分かなく所在なさげな彼の前に女王・リモージュが進み出る。
「ゼフェル、お誕生日おめでとう」
「・・・あ、ああ。どーも」
「今日は来てくれてありがとう。ゼフェルの誕生パーティーだから、めいっぱい楽しんでね♪」
にっこり微笑むリモージュ。

何かというとお茶会だのなんだのと名目をつけて集まりを開く彼らだったので、いつともなしにいつものノリに入り込む。
宴も盛り上がっていたところ再びゼフェルにスポットライトが当たる。
「ゼフェルさま、これからお楽しみタイムやで。今日のメインイベント、お待ちどうさまのプレゼントタイムや!豪華プレゼント、揃とるで〜。ささ、こっちこっち」
手招きするチャーリーに促されゼフェルはその一角に向かう。
四角いテーブルに椅子。テーブルには何かのボタン。その一式は以前どこかで見た記憶が・・・どこだっただろうと記憶を辿る。
そこに座ったゼフェルにチャーリーが続ける。
「では、これからゼフェルさま誕生日クイズ大会や!ゼフェルさま、簡単なクイズやからしっかり答えてーな」
クイズ・・・?それではっと思い出す。そうだ、この一式は先日テレビで見た・・・そういえば、その番組の提供はウォン系列・・・。

プレゼントは・・・えーと、激辛カレーにミネラルウォーター、機械工学書にレアメタルなどなど盛りだくさんやで。
そして特賞は・・・視察と言う名の休暇旅行1週間!それもペアや!」
“1週間の休暇・・・それもペア・・・じゃああいつ誘って・・・”ゼフェルの脳裏に旅行のイメージが浮かぶ。
「よし、やるぜ!」
目の前の大きなエサにやる気満々のゼフェル。

 
「じゃ、行きまっせ。問題は10問。守護聖さまとわいら協力者たちからのそれぞれの出題や。まず第1問」
チャーリーは箱の中から紙を取り出し読み上げる。

『ジュリアスさまの趣味は乗馬ですが、クラヴィスさまの趣味は?
  1.寝ること
  2.星を見ること
  3.水晶球
  4.し・・・主・・・いや誰かを怒らせること』
さあゼフェルさま、答えは?考える時間は1分。カウントダウンスタートや」
この場合答えは4以外ではないことも、その誰かが首座であろうことは周知の事実だが、でも-------それを言っていいものか。
・・・・・・。ゼフェルは葛藤する。
「さあタイムアップや。ゼフェルさま、答えは!」
「・・・・・・・・・・・・4」
おずおずと指で4を示し小声で答える彼。そしてチラッとジュリアスを盗み見る。
ジュリアスはオスカーに話し掛けられていたようで、ゼフェルの回答には気付いていないようだった。
ほっとするゼフェルにオスカーがOKサインを出す。
「ピンポーン!正解です!この問題のプレゼントはミネラルウォーター「おいしい水」2リッターペットボトル1年分!
私邸に届けときますんで。とりあえずこれ一本どーぞー」
テーブルの上にペットボトルとコップが置かれ、水が注がれる。

「続いて第2問。『マルセルさまの好きなものは?
  1.チェリーパイ
  2.チュピ
  3.花』
これは4択ではなく3択ですなー。さあどれでっしゃろ」
思わず「全部じゃねーかよ」と突っ込みたくなる。
いくら好物でも生き物にはかなわないだろうと2のチュピを選んで正解。
その後も簡単なのか難しいのかわからない奇問難問に頭を抱えながらも何とか回答を言い当て次々とプレゼントをゲットしていくゼフェル。
「第9問・・・『オリヴィエさまがこの中で一番メイクしたいのは誰?
  1.ジュリアス
  2.リュミエール
  3.マルセル
  4.ルヴァ』
 お、このプレゼントはレアメタルでっせ。よーわからんですけどメカ作成にいいもんのようで」
ゼフェルにとってはこのプレゼントもほしいものだった。
しかし答えが・・・誰だ?迷うゼフェルだったが「この中で一番」がポイントではないかと閃く。
「1、どーだっ!」
得意げにオリヴィエを見据えるゼフェル。そんなゼフェルにオリヴィエの口元に軽く笑みが浮かぶ。
「ピンポーン!正解!!おめでとうございます。これでレアメタルゲット〜!」
思わずガッツポーズするゼフェル。

「なっ!けしからん!なぜ私なのだオリヴィエ!」
「え?いいじゃない別に。ワタシが勝手に思ってるだけなんだし。「する」とは言ってないわよ〜。
あ、でもアンタにその気があるならワタシはいつでもOKだけどね★」
ジュリアスの様子など全く意に介さず、オリヴィエは飄々と返す。
「オ、オリヴィエそなた・・・」
「ジュリアス様、落ち着いて下さい。このオスカーが後でよく言っておきますから」
なだめるオスカー。
「ジュリアス、お祝いの席よ。慎んで。それにもうちょっと柔軟に、ねv」
「・・・は、陛下。申し訳ございません。このジュリアス、大人げない行動を取ってしまいました」
さすが女王。皆感心する。

9問が終わり、残るはあと1問。
「一週間の休暇旅行・・・ペア・・・」
もうゼフェルの頭にはそれしかないようだ。

「さて、いよいよ最終問題やけど、これは出題者のルヴァさま、読み上げよろしくお願いします」
ルヴァにマイクを渡すチャーリー。
「あー、すみませんねーチャーリー。えー、では行きますねー。簡単ですから心配しないでくださいねゼフェル
『私はこうやって頭にターバンを巻いていますが、それは何故でしょう。
4つのうち正解は2つです。両方あってないと正解とはなりませんよー
  1.防寒・保温
  2.設定
  3.故郷のしきたり
  4.ネオロマ乙女の萌えポイントUP狙い』
。さーどれでしょー。ね、簡単でしょうゼフェル?(にっこり)」

確かあれは確か故郷の風習って聞いたぞ・・・残る1つは・・・おっさんルヴァのことだ。1だな。
「ゼフェル、わかりましたかー?」
簡単な問題を作ってくれたルヴァに感謝しつつ答えを口にする。
「・・・3と・・・1」
「1と3ですねー?・・・ふぁいなるあんさー?」
某番組を真似たセリフにゼフェルをはじめ一同コケそうになる。
試すようにゼフェルを見るルヴァ。その「タメ」が彼を焦らせる。
どこからかあの効果音も聞こえてくるようだ。
ルヴァとゼフェル、師弟関係を超えた緊迫感に一同固唾を飲む。
「ああ、3だ。あんた、前そう言ってたじゃねーか。あとは1。ファイナルアンサーだ」

 

「・・・あー、残念ですねぇ。正解は2と4です」

 
ルヴァの言葉にゼフェルははっと顔を上げ今の言葉が信じられないという表情をする。
「え?何でだよルヴァ!あんたそれ故郷のしきたりだって言ってたじゃ・・・!」
「ええ、まぁそうなんですけどね。でも・・・」
「でも何だよ!」
「突き詰めれば、それも『設定』なんですよねー。そしてそれは4でもある」
にっこりと微笑むルヴァ。がくっとするゼフェル。対照的なその2人に司会?のチャーリーが割って入る。
「はいはいはいゼフェルさま残念やったですなぁ。でもまだガッカリするのは早い!
超大型プレゼントは逃しはったけど、残念賞がありまっせ。
ほんまこのプレゼント、残念賞なんて言うよりもう一つの超大型プレゼント言うてもええほどのええもんでっせ」
セイランが出てきてゼフェルに熨斗袋を手渡す。
「はいゼフェルさま。これは僕らからのプレゼント。どうやら君はとてつもなく幸運の持ち主かもしれないよ。おめでとう」
チャーリーが拍手する。それにつられて皆拍手をする。
やまない拍手の中、どこか納得できないゼフェルを残しながらも誕生パーティーはお開きとなった。

 

夕方私邸に戻ったゼフェル、今日のプレゼントの数々に一人笑みをこぼす。何だかんだ言いつつもほしいものばかりだったからだ。
そして最後の『残念賞』の中身を確かめようとしたその時部屋をノックする音が。
「ゼフェルさま、おじゃましますで〜」
「先程はどうも。早速伺わせてもらいますよ」
こちらが開けるより先に扉は開き、それはチャーリーとセイランだった。予期していなかった来客に驚くゼフェル。
「な、なんだよ。おめーたち、人んちに・・・」
「あれ、まだ見てなかったんですか、それ」
「見ようとしたらおめーらが来たんだよっ!」
「あれー、まだやったんか。ほなゼフェルさま、中身の確認頼んまっせ」
嫌な予感に恐る恐るその袋を開け中身を見るとそこには

「スペシャル企画!詩とダジャレのスペシャル出張生ライヴ!!チャーリー&セイラン夢の競演」の文字。

「ゼフェルさま、HappyBirthday。たっぷり笑っていただきますよ」
「せや。笑いは明日の活力やさかいな。ほな行きまっせ〜」
言葉を失いつつもぶんぶんぶんと首を横に振るゼフェルにお構いなく、2人のお笑い芸人は舞台を手早くセッティングし 次から次へと持ちネタを繰り出し笑いを強要する。

 
一方こちらは女王の間。
「ねぇアンジェ、あの残念賞ってなんだったの?」
ロザリアが尋ねる。
「ええ、詳しくは分からないんだけど、ライヴのチケットみたい。チャーリーたちがどうしても贈りたいっていうから。
彼らももうじきそれぞれの星に帰っちゃうし・・・いい思い出ができたらいいかなって。
休暇、大盤振る舞いしてもよかったんだけど。やっぱり他の守護聖の手前もあるし・・・ルヴァにちょっと頼んで」
「もしあれが通ったら、確かに9人の誕生日ごとに休暇与えなきゃいけなくなりそうですものね」
「あー、一週間の休暇かぁ。私もほしいなぁ〜〜〜」
「陛下!」
ロザリアがたしなめる。
「言ってみただけ」
「・・・でも、確かにそれならわたくしもほしいですわね」
顔を見合わせぷっと吹き出す女王と補佐官。

「でも、ハッピーバースデー。ゼフェル」
「・・・ですわね」
それぞれの心の中にそれぞれのハッピーバースデー。

しかし夜通し続く寒いライヴ真っ最中のゼフェルに、果たしてその想いが届いているかどうかははなはだ謎である。



ゼフェルごめん〜〜。
だけど、これも愛だ!!

2008.06.05up
前日に間に合わせたかったのに、眠気に負けましたすみません。

 
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